嘘情報が流布する奇妙さ2025/01/20 18:47

ずいぶん、昔のことだ。
が、今でも、鮮明に、あのときの、驚きというか呆れというか、を覚えている。

母が、私の近所のマンションに引っ越してくることを決めたときだ。
古い一戸建てを売ることにした。
決心すると、行動は早い母、早速、大手の不動産業者に依頼して、販売手続きを進めた。

まず、家の査定のために、測量から始まる。
町なかの、隣と軒を接した家で、境界がそれぞれややこしい。
亡父も不動産業者だったので、そこは抜かりなく、登記も、過去に所有する隣家を売った時の契約書も万全なものだった。
母の要請で、何度も、打ち合わせの際に、私も足を運んだ。

が、それぞれだだをこねる近所ばかりだった。
境界で苦情を言ってきたりするのを、測量士、不動産業者、そして私も書類に目を通し、問題なしと結論づけて近所を納得させるまで、結構、時間を費やした。
日頃、良い人たちで、両親は良好な関係を築いてきたはずなのに、こういうことは別物らしい。

その間に、
「しばらく貸してほしい」と頼んでくる近所の人もいたりした。家を改築するので、借りたいとのことだった。
母は、そういう話を一切断っていた。
今思えば、高い家賃をもらうわけにもいかず、またもや、ややこしい話になるのかもしれない近所とは早く縁を切りたかったのかもしれない。

引っ越し作業が始まった時、私は母の家に行っていた。
荷物が運び出されるので、玄関は大きく開け放たれ、
一方の隣家の主婦が手伝いだか何だかわからないが、
しばしば顔を出していた。
そして、私に言った。
「この家は売らんと、貸さはるんですね」と。
私はびっくりして、
「え? 母はどこにも貸さないで売ることにしましたよ」と訂正した。
すると、その人は、
「そんなことないです。私、お向かいの〇〇さんに聞きました」と、自信たっぷりに答えた。
あまりの自信たっぷりさと、その、お向かいの〇〇さんという、噂好きのご近所の組み合わせに、もう、訂正するのを諦めた。

そうか、、ガセネタって、こうして流布するのか、、と、妙に感慨深く思った。

そのお向かいの〇〇さんは、たぶん、想像でものを言ったのだろうが、あるいは、「貸してほしい」と言ってきた人からその希望を聞いたのだろうが、なぜか、それが既定の事実に変貌していた。
そして、その噂は、別の人の強い確信となっていた。

母にそのことを言ったが、母はもう気にもとめなかった。
母は、既に、そのご近所から心が離れていた。
トラブルがないように気を配りながら住んでいたが、
心を許しているわけではなかったようだ。
だから、境界線のことも偽情報も、聞き流していた。

父が売って隣家を買った人の息子が話し合いの場に来て、何度も文句を言っていた。
私は父とその人の父親が交わした契約書を指し示しながら、
「法的に全く不備のない契約だと思いますが」と言うと、
「そりゃあ、裁判をすれば、うちが負けますよ」と怒りながら、相手は言った。
バブルの頃の価格なので、高額だったことが彼を怒らせていたのだ。
それも、彼ではなく、彼の父親がおこなった契約なので、怒りを持って行く場所がなく、
結局、隣接している場合、本来ならその人が持つべき費用を、自分は一切払う気がない、と言い放った。

それは、実は不当な言い分だったが、
母は、私に、
「全部、向こうの言うとおりにしたげて」と言った。
すべてが煩わしく、さっさと縁を切りたかったのだろう。

それで、母は、何の未練もなく、転居した。
母の家から数軒離れた先の私と同じくらいの年齢の女性が、
母との別れを惜しんで泣いていたが、母は、愛想良く挨拶をし、
私たちの車が出発すると、実にクールで、すべてを忘れたかのようだった。
「あの人、泣いたはったね」と言っても、そのことに反応さえしなかった。
今となれば、母の心情はわからないが、、、。

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