母のホームドレス2017/05/29 10:49

まだ母の住んでいた家はそのままにしています。
ちゃんと後処理をしないといけないと思いつつ、
片づけにいく気力がなく、たまにマンションの設備点検などで訪れる程度で、ふだんは放置しています。

高額ではないけど、固定資産税も要るし、光熱費も少しはかかるし、
毎月、2万円弱の管理費等とかも、私にはしんどい出費です。

なんとかしなければ、と毎日思いながら、
毎日、放置している有様です。

3LDKなので、母は一室をクローゼットにして使っていました。
そこに入ると、母の服がたくさんハンガーにかかっています。
一時期は、毎日のように服を買っていたので、
(だから、お金が残ってないんだ^^;)
とにかく服がぎっしり。
母が寝たきりになったとき、ケアマネさんは「衣裳部屋」と呼んでいました。

今は、そこに入ると、悲しみやら焦りやら、わけのわからない感情に襲われます。

母が最初に入院したときは、夏でした。
診察を受けてそのまま入院が決まったので、
生活用品などを私が持ってくることになったのですが、
そのとき、母が私にホームドレスを持って来てくれと言いました。
何年か前の母の日に、私が大丸で買ってプレゼントした半袖のちょっとおしゃれなホームドレスです。
着ている様子がなかったので気に入らないのかと思っていたのですが、
そうではなく、何かの時におニューをおろすつもりだったのです。
入院はその「何かの時」です。
重い子宮がんと言われていましたが、
本人は至って元気。
母は、病院内をおしゃれなホームドレスで売店に買い物に行く自分を想像していたようです。
でも、私が家からそれを持って行ったら、看護師さんが容赦なく、
「あ、そういうのダメ。前あきのゆったりしたパジャマか寝間着にして」と言われました。
なんだか、思惑がはずれてかわいそうでした。

思えば、その時以来、母の思惑はすべて外れて行きました。
思ったよりはるかに病気は重く、やれないことが増えていきました。
放射線治療のせいで、失禁も多くなり、
何もかも想定外で、自分の状態が進むのは、
ほんとうに失望の連続だったでしょう。
思い出すと、母がかわいそうになります。
ささやかな楽しみを見つけても
(たとえばホームドレスを着るというような)
それさえかなえられない日々が始まったのでした。

母の部屋に手を着けられないのです。
母の大事にしていたすべてが、そこにはあります。
どこかで踏み切らないといけないのですが、
悲しくて切なくて、何もできなくなるのです。